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東京地方裁判所 平成5年(ワ)7562号 判決 1994年10月07日

原告

數見良造

ほか四名

被告

富士交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告數見良造に対し一九万一六八三円、原告數見純子に対し四三万六五四一円、原告數見智子に対し七万七〇〇〇円及び原告數見裕子に対し三万三八三一円並びに右各金員に対する平成四年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告日動火災海上保険株式会社に対し、二三六万一八〇〇円及びこれに対する平成四年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決の第一項及び第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、各自、原告數見良造に対し、二八万七〇〇〇円及びこれに対する平成四年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告數見純子に対し、八一万二〇〇〇円及びこれに対する平成四年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、各自、原告數見智子に対し、一一万二〇〇〇円及びこれに対する平成四年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、各自、原告數見裕子に対し、一八万三〇〇〇円及びこれに対する平成四年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告らは、各自、原告日動火災海上保険株式会社に対し、三二〇万五三〇〇円及びこれに対する平成四年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

平成四年七月二五日午前五時五〇分ころ、神奈川県大和市つきみ野八丁目一三番九号先の信号機による交通整理が行われていない交差点(以下「本件交差点」という)において、横浜方面から相模原方面へ向かつて直進してきた原告數見良造(以下「原告良造」という)運転の自家用普通乗用自動車(横浜七〇つ九四四八号。以下「原告車」という)の左側面後部に、中央林間方面から同交差点に進入して右折しようとしていた被告鈴木克己(以下「被告鈴木」という)運転の営業用普通乗用自動車(練馬五五く八三二七号。以下「被告車」という)の前面左部が衝突し(以下「本件第一事故」という)、右衝突により左方向に振られた原告車は、道路左側に駐車していた訴外姫木逸男(以下「姫木」という)所有の自動車に衝突し(以下「本件第二事故」という)、続いて道路左側のセブンイレブン大和つきみ野八丁目店の店舗ガラス外壁に突つ込んで停止した(以下「本件第三事故」という)。被告鈴木は、本件各事故当時、被告会社の業務の執行として被告車を運転していた

(争いがない)

2  責任原因

被告鈴木は、被告会社の業務の執行として、被告車を運転していたところ、一時停止義務及び前方の安全確認義務を怠り本件交差点に進入した過失により原告車と衝突したものであつて、原告良造、同純子、同智子及び同裕子が被つた損害について、被告鈴木は民法七〇九条に基づき、被告会社は民法七一五条に基づき、それぞれ損害賠償責任がある(争いがない)。

3  損害の発生

本件第一ないし第三事故により、原告良造は胸部挫傷、右大腿挫傷の、同乗していた原告數見純子(以下「原告純子」という)は頭部挫傷、頸部捻挫、腰部挫傷の、原告數見智子(以下「原告智子」という)は左膝及び左下腿挫傷の、原告數見裕子(以下「原告裕子」という)は頭部打撲、口腔内挫創、左足関節捻挫の各傷害を負い、原告純子所有の原告車が大破して全損となつた(甲二ないし五、一八、一九、原告良造本人、同純子本人)。

本件第二事故により、姫木はその所有にかかる車両の後部を損傷され、車両修理費用七四万二六五一円の損害を受け、修理期間中の代替車費用二三万七三一〇円を要した。また、本件第三事故により、訴外株式会社セブンイレブンジヤパンはその所有にかかる前記店舗のガラス外壁を損壊され、その修理に八九万四〇四〇円の費用を要した(甲一二の1ないし3、一三の1ないし5、一八、一九、原告良造本人、同純子本人)。

4  保険契約の締結

原告日動火災海上保険株式会社(以下「原告会社」という)は、原告純子との間で、原告車について、同原告を被保険者、本件各事故を保険期間内とし、対物賠償保険金五〇〇万円とする車両損害保険付きの自家用自動車総合保険契約を締結していた(争いがない)。

5  保険金の支払い

そこで、原告会社は、事故時の原告車の運転者が原告純子の配偶者であつたことから、普通保険約款及び特約約款に従つて、平成四年九月八日、原告純子に対して、車両損害として原告車車両時価額として一五〇万円を支払い、同年一〇月五日、姫木に対して、本件第二事故による物損に対する賠償金として九七万九九六一円を支払い、同年一一月六日、株式会社セブンイレブンジヤパンに対して、本件第三事故による物損に対する賠償金として八九万四〇四〇円を支払つた(甲一二の1ないし3、一三の1ないし5、一八、一九、原告良造本人、同純子本人)。

二  当事者の主張

1  原告ら

(一) 原告良造、同純子、同智子及び同裕子は、本件第一ないし第三事故の責任はすべて被告鈴木にあるとし、事故によつて被つた人損及び物損について、被告一鈴木に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては民法七一五条に基づき、右損害の内金及び不法行為の日からの遅延損害金の支払いを請求する。

(二) 原告会社は、本件第一ないし第三事故の責任はすべて被告鈴木にあるとし、一5の保険金支払いによつて、原告良造及び同純子が被告鈴木及び被告会社に対して有する損害賠償請求権を保険代位(商法六六二条)により取得したとして、支払保険金の内金及び保険金支払日からの遅延損害金の支払いを請求する。

2  被告ら

(一) 本件第一ないし第三事故は被告鈴木の過失のみにより発生したものではなく、被告鈴木と原告良造の双方の過失によつて生じたものである。すなわち、原告良造は本件交差点に進入の際、左前方は見通しがよかつたにもかかわらず前方注視を怠り、早朝で車の量も少なかつたため、徐行義務を怠り時速九〇キロメートルに近い速度で進入してきたため、左側から進行してきた被告車との接触を回避することができず、被告車に接触の際にも急制動の措置をとらずそのままの速度で道路左側に駐車していた姫木車両に衝突したばかりか、更に左側のセブンイレブン店舗外壁に衝突したものであつて、その過失は大きい。

(二) それゆえ、被告らに原告良造、同純子、同智子及び同裕子に対する賠償義務が存するとしても、原告良造の過失を被害者自身ないしは被害者側の過失として斟酌し過失相殺がなされるべきである。

(三) 本件第二及び第三事故は原告良造と被告鈴木の共同不法行為に起因するものであるから、原告会社が保険代位によつて取得するのは、原告良造が被告鈴木に対して有する共同不法行為者間の求償権にすぎないところ、本件第二事故における原告良造と被告鈴木の負担部分は、原告良造七・五対被告鈴木二・五であり、本件第三事故におけるそれは原告良造九対被告鈴木一というべきである。

(四) 原告ら主張の損害については争う。

三  本件の争点

1  本件各事故の具体的状況、原告良造の過失の有無程度及び被告鈴木の過失の程度、過失相殺の可否、共同不法行為者間の負担部分

2  損害額の算定

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲一四ないし一九、乙一、原告良造本人、同純子本人、被告鈴木本人)によれば次の事実が認められる。

(一) 本件交差点は、国道一六号線のうちの横浜方面から相模原方面に向かう下り車線であつて、幅員が約九・七メートルの一車線の道路(そのうちの六・八メートルが走行車線、残余はいわゆるゼブラゾーン)と、片側一車線の幅員約七メートル(一車線の幅員約三・五メートル)の道路(以下「交差道路」という。)がほぼ直角に交差する交差点であつて、信号機による交通整理は行われていない。交差する道路はいずれもアスフアルト舗装が施されていて、路面は乾燥しており、最高速度は時速四〇キロメートルに制限されている。国道一六号線は平坦な直線道路であるが、交差道路は中央林間方面から本件交差点にむかつてゆるやかな登り坂となつていて、交差道路の本件交差点の手前には一時停止の標識及び停止線が設置されている。なお、本件交差点付近の国道一六号線は幅広い中央分離帯によつて上下線が区分されていて、交差道路の中央林間方面からきた車両は、本件交差点を直進通過してこれに続く中央分離帯の切れ目から右折することによつて、国道一六号線上り車線に入ることができる。

(二) 被告鈴木は、交差道路から国道一六号線の上り車線に入るべく本件交差点を直進通過して中央分離帯の切れ目の部分に進行しようとしたところ、進路前方には本件交差点手前に一時停止の標識があつたにもかかわらず、国道一六号線下り車線を通過する車両がみられなかつたことから、時速約一〇キロメートルの速度で徐行しただけで、一時停止することなく停止線を通過して本件交差点に進入し、さらに上り車線の走行車両の有無を確認すべく左前方を見ながら進んだところ、本件交差点中央付近で右方から本件交差点に進入してきた原告車に気がついて、急制動の措置を講じたが衝突を回避できず、被告車の左前部が原告車の左側面後部に衝突して、被告車は約三〇センチメートルほど進んで停止した。

(三) 他方、原告良造は、原告純子を助手席、同智子及び同裕子を後部座席に同乗させて原告車を運転し、国道一六号下り車線を横浜方面から相模原方面に向けて少なくとも時速約五〇キロメートル以上の速度で本件交差点付近に至つたが、進路前方は見通しのよい直線道路で、本件交差点の存在及び左方からの進入車両の発見が困難ではなかつたにもかかわらず、被告車の本件交差点進入を見落とし、減速することなく走行を継続して本件交差点に進入したところ、交差点進入直後に被告車を至近距離にはじめて認め、急制動の措置を講ずることもできず、かろうじてハンドルを右に切つて衝突を回避しようとしたが避け切れず、左方向に振られた原告車は、二六・三メートルすすんで道路左側に駐車していた姫木所有の普通乗用車の後部に衝突し、さらに歩道を乗り越えて自転車を跳ね飛ばし、セブンイレブン店舗に前部から突つ込んで停止した。

2  右によれば、被告鈴木には、一時停止の義務を怠り右方の安全確認をしないまま本件交差点に進入した過失があり、これか本件第一ないし第三の事故の原因となつたことはいうまでもないところ、原告良造にも、前方不注視により被告車の本件交差点進入を見落とし、減速することなく漫然と進行した過失があつたものといわざるをえず、本件第一事故の発生については原告良造にも過失があり、本件第二及び第三の事故は原告良造と被告鈴木の双方の過失が競合した共同不法行為によつて発生したものというべきである。そして、双方の過失割合は、前記の事故態様等に鑑み、原告良造三割、被告高橋七割とするのが相当である。

3  過失相殺の抗弁について

原告良造の過失は同原告に発生した損害の算定にあたつて過失相殺として斟酌されるべきものである。また、証拠(甲一八ないし二〇)によれば、原告良造は、同純子とは夫婦の、同智子及び同裕子とは親子の関係にあつて、同居して生活を共にすることが認められ、右によれば、原告良造と同純子、同智子及び同裕子とはそれぞれ身分上・生活上の一体的関係があるものというべく、原告車の同乗者である原告純子、同智子及び同裕子に生じた損害についても、運転者である原告良造の過失をいわゆる被害者側の過失として斟酌することが許されるというべきである。被告らの過失相殺の抗弁は理由がある。

4  共同不法行為者間の求償について

本件第二及び第三の事故は原告良造と被告鈴木の双方の過失が競合した共同不法行為によつて発生したものというべきところ、共同不法行為者の間における求償権の前提となる各共同不法行為者の負担部分は、原告良造と被告鈴木の過失の割合によつて決するのが相当である。

二  争点2について

1  原告良造の損害

(一) 原告良造の主張する損害は、通院交通費一万一一二〇円、通院慰謝料一〇万円、薬代二万一〇〇〇円、休業損害一一万七四二八円(休業日数六日)、弁護士費用九万円の合計三三万九五四八円であり、そのうちの二八万七〇〇〇円の支払いを求めている。

(二) 証拠(甲二、一八、二〇、二一、二二の2、原告良造本人)によれば、原告良造は、本件事故によつて胸部挫傷、右大腿部挫傷の傷害を負い、平成四年七月二五日(病院からの帰りはタクシーを利用し三三八〇円支出)、同月二八日(往復タクシーを利用し六七六〇円を支出)、翌月五日(往復バス及び電車を利用し九八〇円を支出)、同月一一日(往復レンタカー利用)の四日間田園都市厚生病院に通院したこと、同月一一日治癒となつたこと、原告らの院外薬局の費用として二万一〇〇〇円支出したことが認められる。右によれば、原告良造は、本件事故により、少なくとも、通院交通費一万一一二〇円、通院慰謝料一〇万円、薬代二万一〇〇〇円の損害を被つたというべきである。

(三) 証拠(甲六の1、2、二〇、原告良造本人)によれば、原告良造は、本件事故当時会社員として稼働し、平成三年度は七一四万三五八二円の収入を得ていたところ、本件事故により平成四年七月二五日から翌月一一日までの期間に八日間勤務先を欠勤したこと、原告良造は右欠勤期間のうち六日間を有給休暇を振り当てたため給与は全額支給されて計算上の休業損害は生じていないことが認められる。ところで、有給休暇はその日の労働なくして給与を受けるもので労働者の持つ権利として財産的価値を有するものいうべく、他人による不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかつた者はそれを財産的損害として賠償請求し得ると解するのが相当である。証拠(甲二〇)によれば、原告良造は右有給休暇すべてを本件事故による受傷の治療のための通院、事情聴取のための警察署への出頭などに当てていることが認められるから、不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかつたというべく、一日の有給休暇の持つ財産的価値は原告良造の年収を一年間の日数で除した額によつて算出し、原告良造が有給休暇八日分を費消することによる損害は一一万七四二八円と認めるのが相当である。

(計算式)7143583÷365×6=117428

(四) 右合計金額から過失相殺として三割の金額を控除すると一七万四六八三円となる。そして、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害額は一万七〇〇〇円と認めるのが相当である。

なお、被告会社は、原告車、被告車双方の接触により被告車も損傷し、修理代金として一七万四七二〇円の出捐を余儀なくされ同額の損害を蒙つたとし、相殺の抗弁を主張するが、本件のように双方の過失に起因する同一交通事故によつて生じた損害に基づく損害賠償請求権相互の間においても民法五〇九条の規定により相殺は許されないというべきであるから、相殺の抗弁の主張は失当といわざるをえない。

2  原告純子の損害

(一) 原告純子の主張する人損は、通院慰謝料一〇万円、休業損害八万五二四八円(休業日数四日)である。

(二) 証拠(甲三、一九、二〇、原告純子本人)によれば、原告純子は、本件事故によつて頭部挫傷、頸椎捻挫、腰部挫傷の傷害を負い、平成四年七月二五日、同月二八日、翌月五日、同月一一日の四日間田園都市厚生病院に通院したこと、同月一一日治癒となつたことが認められる。右によれば、原告純子は、本件事故により通院慰謝料一〇万円の損害を被つたというべきである。

(三) 証拠(甲七の1、2、二〇、原告純子本人)によれば、原告純子は、本件事故当時教員として稼働し、平成三年度は七七七万八八九三円の収入を得ていたところ、本件事故により平成四年七月二五日から翌月一一日までの期間に六日間勤務先を欠勤したこと、原告純子は右欠勤期間のうち四日間を有給休暇を振り当てたため給与は全額支給されて計算上の休業損害は生じていないこと、原告純子は右有給休暇すべてを本件事故による受傷の治療のための通院、事情聴取のための警察署への出頭などに当てていることが認められる。右によれば、原告純子は、不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかつたというべく、一日の有給休暇の持つ財産的価値は原告純子の年収を一年間の日数で除した額によつて算出し、原告純子が有給休暇四日分を費消することによる損害は八万五二四八円と認めるのが相当である。

(計算式)7778893÷365×4=85248

(四) 原告純子は、物損として、レツカー代六万九六〇八円、レンタカー使用料一三万四九三〇円、車両評価損一二万五〇〇〇円、新車購入諸費用一八万二〇二〇円(検査登録手続代行費用三万八一〇〇円、検査登録手続費用五二九〇円、自動車重量税五万六七〇〇円、自動車取得税八万一三〇〇円)の損害を主張する。

(五) 証拠(九、一〇の1、2、二〇)によれば、原告純子は、走行不能となつた原告車をレツカー車によつて運搬してもらい、その費用として六万八九九〇円を支出したこと、原告純子らは、通院、通勤、日常の買物、外出等に使用するため、平成四年八月六日から新車が納入されるまでの一カ月間レンタカーを使用し、その費用として一三万四九三〇円を支出したことが認められ、右によれば、いずれの支出も本件事故による損害というべきものである。

(六) ところで、原告純子が評価損として主張するのは、原告車の購入価格一八〇万七〇〇〇円に減価償却率〇・九〇八を乗じた数字の範囲内である一六二万五〇〇〇円をもつて本件事故当時における原告車の価格とし、これから車両保険により填補された一五〇万円を控除したものを損害とするものであるが、右主張にかかる原告車の購入価格及び減価償却率に関する証拠は全くないのであつて、原告純子の右主張は採用できないといわねばならない。

(七) また、証拠(甲二〇、二五)によれば、原告純子は原告車が全損状態となつたことから、被害車両の同一車種、同一型の新車を購入し、そのために、検査登録手続代行費用三万八一〇〇円、検査登録手続費用五九二〇円、自動車重量税五万六七〇〇円、自動車取得税八万一三〇〇円の支出をしたことが認められる。

ところで、交通事故の被害者が事故当時の車両価格を請求できる場合にあつて実際に自動車を買い替えたときは、登録費用等の諸費用の支出を余儀なくされるが、このうち買替えに伴つて通常必要とされる費用については事故による損害と認められるところ、右の必要性の有無は、それぞれの費用の性質、内容、実態等の諸事情を総合斟酌して決するのが相当と解される。自動車取得税は、自動車の取得者に対して、取得価額を基準として三パーセントの税率で賦課されるものであつて、まさに自動車の取得に伴う出捐というべきものであり、自動車の買替えに伴う損害と認められる。ただし、損害額の算定にあたつては、新車購入の場合を基礎とすべきではなく、事故当時の車両と同程度の中古車を購入するとした場合を想定して控えめに算定すべきである。証拠(甲二〇、二三)によれば、原告車は、平成四年四月に初度登録されたばかりであり、走行距離は三〇〇〇キロメートルにみたないものであつたこと、車両保険としては一五〇万円が支払われたことが認められ、これらの事情を勘案して、自動車取得税相当額の損害は四万五〇〇〇円と認める。また、自動車重量税は、購入する自動車につき自動車検査証の交付等を受ける場合及び車両番号の指定を受ける場合に自動車の重量及び検査証の有効期間に対応して課せられるものであるから、その納付は自動車の買替えによつて生じた費用というべきである。本件にあつては自動車重量税相当額の損害は五万六七〇〇円と認める。そして、車両の新規検査・登録の手続は、購入者が販売店に依頼して行う例かほとんどであるという実態に鑑みれば、検査・登録等にかかる費用については、法定の手数料部分のみに限定するのではなく、これらの手続に関して実際に要した金額をもとに相当額を算定して事故による損害と認めるべきである。本件においては、原告純子が実際に新規検査・登録や納車の手続のため支出した検査登録手続代行費用三万八一〇〇円、検査登録手続費用五九二〇円は全額これを損害と認めるのが相当である。

(八) 原告純子は、本件事故により、予定していた家族旅行を中止せざるを得なくなり、キヤンセル料として三万一六〇〇円の支出を余儀なくされたとして、これも本件事故による損害であると主張する。証拠(甲一一、二〇、原告純子本人)によると、本件事故は原告純子らが家族旅行で清里町へ向かう途中で発生したものであること、本件事故による受傷等のため、原告純子らは家族旅行を中止せざるを得なくなつたこと、原告純子は宿泊予定のペンシヨンヘキヤンセル料として三万一六〇〇円支払つたことが認められる。右によれば、右キヤンセル料の支払いは、本件事故と相当因果関係がある損害というべきである。

(九) 原告純子の主張する損害は(一)、(四)及び(八)の合計七二万八四〇六円のほか、弁護士費用二二万円を加えた合計九四万八四〇六円であり、そのうちの八一万二〇〇〇円の支払いを求めているところ、弁護士費用を除く損害金として認められるものは(二)、(三)、(五)、(七)、(八)記載のとおりの合計五六万六四八八円であり、原告良造の過失を被害者側の過失として三割の過失相殺をすると三九万六五四一円となる。そして、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害額は四万円と認めるのが相当である。

3  原告智子の損害

原告智子の主張する損害は通院慰謝料一〇万円及び弁護士費用三万円であり、そのうちの一一万二〇〇〇円の支払いを求めている。

証拠(甲四、二〇)によれば、原告智子は、本件事故によつて左膝・左下腿挫傷の傷害を負い、平成四年七月二五日、同月二八日、翌月五日、同月一一日の四日間田園都市厚生病院に通院したこと、同月一一日治癒となつたことが認められる。

右によれば、原告智子は本件事故により通院慰謝料一〇万円の損害を被つたというべきである。これに、原告良造の過失を被害者側の過失として三割の過失相殺をすると七万円となる。そして、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害額は七〇〇〇円と認めるのが相当である。

4  原告裕子の損害

原告裕子の主張する損害は入通院慰謝料一三万円、入通院交通費二万一二六〇円、入院雑費六〇〇〇円及び弁護士費用六万円であり、そのうちの一八万三〇〇〇円の支払いを求めている。

証拠(甲五、二〇、二一)によれば、原告智子は、本件事故によつて頭部打撲・左足関節捻挫・口腔内捻創の傷害を負い、平成四年七月二五日から同月二九日まで五日間田園都市厚生病院に入院し、翌月五日及び同月一一日の二日間同病院に通院したこと、同月一一日治癒となつたこと、原告裕子は入通院交通費として七七六〇円(七月二五日のタクシー片道分三三八〇円、同月二九日のタクシー片道分三四〇〇円、八月五日のバス電車分九八〇円)を支出したことが認められる。

右によれば、原告裕子は本件事故により入通院慰謝料一三万円、入通院交通費七七六〇円、入院雑費六〇〇〇円の損害を被つたというべきである。また、証拠(乙三、四)によれば、原告裕子の田園都市病院における治療費は二三万二六七〇円であり、これは全額被告会社により支払われていることが認められる。そうすると、原告裕子の損害は合計三七万六四三〇円となるが、原告良造の過失を被害者側の過失として三割の過失相殺をすると二六万三五〇一円となり、既払の治療費を控除すると三万〇八三一円となる。そして、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害額は三〇〇〇円と認めるのが相当である。

5  原告会社の請求に対する判断

原告会社は、本件第二事故及び本件第三事故に関しての原告良造が被告らに対して有する共同不法行為者間の負担部分に基づく求償権及び本件第一事故に関して原告純子が被告らに対して有する原告車損壊による損害賠償請求権を支払つた保険金額の範囲で取得したというべきである。

原告会社は、平成四年九月八日、原告純子に対して、車両損害として原告車車両時価額一五〇万円を支払い、同年一〇月五日、姫木に対して、本件第二事故による物損に対する賠償金として九七万九九六一円を支払い、同年一一月六日、株式会社セブンイレブンジヤパンに対して、本件第三事故による物損に対する賠償金として八九万四〇四〇円を支払つたことは前記のとおりであるところ、原告車に関する賠償請求権については、原告良造の過失を被害者側の過失として斟酌し三割の過失相殺がなされるべきである。また、本件第二事故及び本件第三事故に関する被告鈴木の負担部分は七割というべきであるから、原告会社が被告らに対して有することとなつた求償権の金額は、各事故による全損害額の七割に相当する金額にすぎないというべきである。

なお、被告らは、本件第二事故につき、姫木車両は駐車禁止場所に違法駐車していたのであるから、本件第二事故の発生については姫木にも過失があり、一割ないし二割の過失相殺がされるべきである旨主張する。証拠(甲一四、一六の1ないし3)によると、姫木車両の運転者は同車両を駐車禁止場所に駐車させたことは認められるものの、併せて、右駐車場所付近は見通しがよい直線道路であること、姫木車両は走行車線と歩道との間にある通常は車両の走行が予定されていないいわゆるゼブラゾーンに駐車されており、車体は走行車線部分にはみ出ていなかつたことが認められ、右道路状況、駐車態様及び本件事故態様に鑑みれば、違法駐車であることのみをとらえて事故の発生についての過失があるとはいえないというべく、他に姫木車両の運転者の過失を基礎づける事情を認めるに足りる証拠はない。被告らの右主張は理由がない。原告会社が保険代位により取得した損害賠償請求権の金額は合計は二三六万一八〇〇円である。

三  結論

以上のとおりであるから、原告良造らの被告らに対する各請求は、原告良造に対して各自一九万一六八三円、原告純子に対して各自四三万六五四一円、原告智子に対して各自七万七〇〇〇円、原告裕子に対して各自三万三八三一円及び右各金員に対する本件事故の日である平成四年七月二五日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があり、原告会社の被告らに対する請求は、各自二三六万一八〇〇円及びこれに対する保険金最終支払日平成四年一一月一三日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これらを認容することとし、その余の請求はいずれも失当であるから棄却することとする。

(裁判官 齋藤大巳)

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